COVID-19:災害対策基本法等で住民の生命と生活を守る緊急提言 第一弾

私たちは東日本大震災を契機に、被災者に対する法的支援を考えるために結集した弁護士有志です。東日本大震災、熊本地震、立て続く豪雨災害など各地の災害時に法的に可能な支援を考え、活動して参りました。
新型コロナウイルス感染症の拡大の中、感染拡大を抑えよう、住民の命を守ろう、住民の生活を守ろうと日々知恵を出し、活動しているすべての方々に敬意を表します。

日本が、世界規模の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに本格的に立ち向かうのは、戦後初めての経験かもしれません。しかし、日本は、阪神・淡路大震災をはじめ様々な激甚災害を経験し、それを乗り越えようとしてきた教訓の蓄積があります。新型コロナウイルス感染症の拡大は、災害対策基本法第2条1項1号が定める「異常な自然現象」と解することは十分可能です。この新型コロナウイルス感染症の拡大という事象を「災害」と捉え、現在の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対策のほか、災害対策基本法やその他の災害対策関連法制を利用し、更なる感染症の拡大防止、生活等の支援が可能となります。

そこで、私たちは、新型コロナウイルス感染症の拡大を災害対策基本法の「災害」に認定するなどの弾力的運用あるいは制度転用を行い、災害対策基本法をはじめ、災害時の各法制度を活用することを緊急に提言いたします。

1  新型コロナウイルス感染症の拡大という事象を災害対策基本法の「災害」と捉えることで、市民に自宅待機を求めることができる。

「災害対策基本法」(以下「災対法」といいます)60条3項には、「市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、屋内での待避その他の屋内における避難のための安全確保に関する措置(以下「屋内での待避等の安全確保措置」という。)を指示することができる。」と規定されています。
災対法を適用または転用することで、市町村長の指示により、市民に、屋内での待避等の安全確保措置を指示することができます。

 2  新型コロナウイルス感染症の拡大という事象を災害対策基本法の「災害」 と認定することで、感染拡大警戒地域、感染確認地域を「警戒区域」と設定し、 特定の者以外の立ち入りを制限することができる。

災対法63条 1 項に、「災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、人の生命又は身体に対する危険を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、警戒区域を設定し、災害応急対策に従事する者以外の者に対して当該区域への立入りを制限し、若しくは禁止し、又は当該区域からの退去を命ずることができる。」と規定されており、災対法を適用または転用することで、感染拡大警戒地域、感染確認地域を、警戒区域と指定し、当該地域への医療従事者など感染症対策関係者以外の方の立ち入りを制限することができます。
なお、上記制限に反した場合には、10万円以下の罰金又は拘留の罰則も定められております(災対法116条2項)。

3  「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」に基づく「激甚災害時における雇用保険法による求職者給付の支給の特例」を活用し  て、事業者が雇用者を解雇せず、休業中であっても、雇用者が雇用保険の基本手当を受給できる。

新型コロナウイルス感染症の拡大を、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(以下「激甚法」といいます)の「激甚災害」と認定または制度転用することで、激甚法第 25 条に基づく「雇用保険法による求職者給付の支給に関する特例」を活用することができます。
この特例を活用することで、事業者が雇用者を解雇することなく休業することができ、雇用者は雇用保険の基本手当を受給でき、新型コロナウイルス感染症の拡大が終息した時点で事業の再開も可能となります。
(なお、この特例を利用した場合、一時的離職前の雇用保険被保険者の期間が通算されない事態が起きるので、そうならないようご配慮下さい。)

以上の他にも、新型コロナウイルス感染症の拡大を「災害」と捉えれば、災害時の様々な生活支援制度を活用することができます(例えば、「被災者生活再建支援法」に基づく生活再建支援金の支給や、「災害弔慰金の支給等に関する法律」に基づく災害援護資金の貸付けなど)。

日本は、様々な甚大な災害を経験し、その災害から立ち上がるための法制度を整備し、それを実践してきた知識と経験があります。現在の人類の危機に立ち向かうためには、形式的な「災害」の定義にとらわれず、直接の適用が困難であるとしても、その仕組みを新型コロナウイルス感染症対策として緊急的に転用するなどして積極的に活用することが、国の責務であると考えます。

令和2年4月16日

 

新型コロナウイルス対策に「災害対応」を求める弁護士有志発起人     

弁護士 新里  宏二   (仙台弁護士会)
弁護士      津久井 進(兵庫県弁護士会)
弁護士  吉江  暢洋  (岩手弁護士会)
弁護士  山谷  澄雄  (仙台弁護士会)
弁護士  宇都  彰浩  (仙台弁護士会)
弁護士 小野寺  宏一(仙台弁護士会)
弁護士    勝  田  亮 (仙台弁護士会)

【賛同人】

村山敬樹・荒井剛(釧路弁護士会)、植松直(函館弁護士会)、小門史子(旭川弁護士会)、鈴木陽大・花生耕子(青森弁護士会)、瀧上明・吉田瑞彦・長谷川頌・森田了導・細川亮・山中俊介・平本丈之亮・佐藤英樹・川上博基・佐々木良博(岩手弁護士会)、西野大輔・近江直人・森田祐子・山本隆弘・山口謙治(秋田弁護士会)、脇山拓(山形県弁護士会)、菊地修・加瀨谷拓・佐保貴大・高橋博明・佐久間敬子・塩谷久仁子・井口直子・斉藤睦男・内田正之・古川真紀・太田伸二・小向俊和・三浦じゅん・山田いずみ・中尾健一・布木綾・飛澤聡美・野呂圭・松尾良成・新妻範之・相澤央敏・佐藤篤・長尾浩行・内藤梓・桑原和也・滝浦のぞみ・田崎章子・千葉俊太郎・後藤雄大・菅野真光・小野寺友宏・住吉毅洋・佐々木健次・倉林千枝子(仙台弁護士会)、西山健司(福島県弁護士会)、伊澤正之(栃木県弁護士会)、舘山史明・関夕三郎・西村直行・猪俣有未・鈴木克昌・吉野晶・稲毛正弘(群馬弁護士会)、井上隆行・栗屋威史・村上朗子・小野寺豊希・黒坂あやの・永田豊(千葉県弁護士会)、須賀翼(埼玉弁護士会)、伊藤英徳・青木英憲・山岸宏彰・釜井英法・香川美里・寺町東子・神村大輔・平澤慎一・内藤平・大沼宗徳・的場美友紀・安岡喜代里・熊谷信太郎・緒方義行・吉岡剛(東京弁護士会)、三輪記子(第一東京弁護士会)、在間文康・阿部みどり・小海範亮・幸田雅治(第二東京弁護士会)、北上紘生(静岡県弁護士会)、薬袋真司・久米川良子(大阪弁護士会)、大田健司・古殿宣敬・亀若浩幸・山﨑満幾美・道上明・安井健馬・上谷佳宏・佐伯雄三・尾﨑幸弘・吉田哲也・德山育弘・福島健太・辰巳裕規・定岡治郎(兵庫県弁護士会)、今田健太郎・友清一郎(広島弁護士会)、滝口耕司・堀井実(香川県弁護士会)、堀井秀知・大塚喜封・篠原健(徳島弁護士会)、藤田貴彦(愛媛弁護士会)、松尾朋・春田久美子(福岡県弁護士会)、奥田律雄(佐賀弁護士会)、福永紗織・鹿瀬島正剛(熊本県弁護士会)、正込健一朗(鹿児島県弁護士会)、藤井光男(沖縄弁護士会)

以上124名

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