COVID-19:災害対策基本法等で住民の生命と生活を守る緊急提言 第二弾

国は、新型コロナウイルス対策支援として、令和2年4月27日において、住民基本台帳に記録されている者すべてを対象に、一律一人10万円を支給する方針を固めました。コロナウイルスの感染拡大による影響が全国に広がるなか、日本国内で生活する方々に対する支援という点で、一定の効果があるものと考えます。
この10万円を支給するという支援策に対しては、高額所得者も対象となることから、実際に重大な被害を受けている方々にとっては、30万円の支給が受けられる見込みだったものが10万円に減額されることになってしまうというような指摘もなされています。
しかしながら、国が、新型コロナウイルスの感染拡大を、日本国内で生活する方々全体に関わる問題であるとし、緊急事態宣言も全都道府県を対象とし、不要不急の県境を越える移動や外出の自粛を求めている現状を踏まえ、そうした自粛の対象となる日本国内で生活するすべての方々に対する給付金の支給を決定したことは一定の評価ができるのであり、そうした支援が決まった以上、1日も早く、給付金が支給されることを期待します。
さらに、この給付金については、必要な方に確実に、かつ、早急に支給されるように、また、その支給の趣旨を実現するために、以下の通りいくつかの提言をいたします。

1 新型コロナウイルス対策支援の日本国内で生活するすべての方々に一人10万円の特別定額給付金(仮称)支給については、国民からの申請を待つことなく、直ちに、一律に支給するべきです。

上記のとおり、確かに、日本国内で生活するすべての方々に対する一律給付は、高額所得者も対象となることが問題視されています。
しかし、いかなる経済状況にあろうとも、新型コロナウイルスの感染拡大は日本国内で生活するすべての方々に対して影響を及ぼしているのであり、給付金の対象者を広げることに合理性を認めることができます。
むしろ問題なのは、支給を必要とする人々が、もれなく、申請手続を取ることができるかどうかわからないということです。
給付対象者を、基準日(令和2年4月27日)における住民基本台帳に記録されているすべての者をとしているのであれば、申請手続きを経ることなく、住民基本台帳に記録されている方々あてに、給付の案内を送付し、支給すべきです。

支給すべき対象か否かを区別している時間的余裕はなく、また、自らが支給を受けるべき存在か否かの判断を個々の国民に委ねるべきではありません。 災害時の様々な支援制度についても、申請主義であることにより、真に支援を必要としている被災者に、支援が届かないという現実が指摘され続けています。 新型コロナウイルス対策支援のための10万円の支給については、申請を要することなく、全ての国民に一律に給付すべきです。

国が、国民のマスク不足に対応するため、申請方式とすることなく、一律にマスク2枚ずつを各世帯に配布したことと同様に、この給付金についても、支援の必要なすべての方々に寄り添った支援として、申請を待たず、直ちに、一律に給付すべきです。

2 新型コロナウイルス対策支援のために支給される特別定額給付金(仮称)10万円については、世帯毎ではなく、個々人に支給すべきです。

災害による被災者のための支援においても、世帯毎に行われることが多く、その問題点が多く指摘されています。
被災者生活再建支援金も各種義援金も世帯毎に支払われるために、世帯内において、個々の意思、意向が反映されずに、不本意な住宅再建が進められ、あるいは、義援金が世帯主だけに利用されてしまい、他の家族は全く義援金を生活の維持、債権に使うことができなかったということもありました。

DV被害を受けている方が、世帯主である配偶者に支援金、義援金の全てを使われてしまったという例は多数存在します。
重要なことは、個人の尊厳の維持であり、個々人の基本的人権の確保、保障です。 新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、「世帯毎」に生じているのではなく、「個人毎」に生じているのであり、それに対して、国から給付金が支給されることになっているはずです。
給付金は、世帯毎に限定するのではなく、個人個人に支給すべきです。

3 日本に住居を有する外国人に対しても、もれなく、特別定額給付金(仮称)が行きわたるように支援してください。

総務省のホームページには、特別低額給付金(仮称)の給付対象者は、「基準日(令和2年4月27日)に、住民基本台帳に記録されている者」とされており、当然のことながら、日本に居住する外国人も対象とされております。 日本の制度に詳しくない外国人もいらっしゃいますので、対象者にもれなく行きわたるようにしてください。

4 新型コロナウイルス対策支援のために支給される10万円については、差押禁止とすべきです。

給付金の支給を要する人にとって、給付金は生活の維持等のために、極めて重要なものです。差し押さえられるなどして、失うことになれば、それは直ちに、生活の維持ができなくなることを意味し、経済的破綻を決定づけることになりかねません。

東日本大震災以降、いくつかの災害において、義援金の差押えを禁止する臨時法が制定されてきました。

その目的は、義援金の性質上、被災者の手元に残り、確実に被災者自身に利用されることが期待されていることから、差押えにより、義援金を支出した者の期待を害することのないようにすることにあると考えられます。

新型コロナウイルス対策支援のための現金支給は、まさに、支給を受けた方が自ら利用することが期待されているものであり、災害時の義援金と同じように、差押によって、支給を受けた方が利用できなくなることは、支給の趣旨に反することになります。
よって、災害時の義援金と同様に、新型コロナウイルス対策支援のために支給される給付金については、差押を禁止すべきです。

5 新型コロナウイルス対策支援のために支給される10万円について、生活保護制度における収入認定をすべきではありません。

生活保護の受給者であっても、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、その対策のために、様々な行動の制約が求められることは、他の方と変わりません。
従って、保護費の支給内容が変わらないとしても、新型コロナウイルス対策支援のために支給される10万円については、生活保護受給者に対しても支給されるべきです。

上記のとおり、支給は、申請等を待たず、全ての国民に一律に行われるべきですが、その場合、支給された10万円について、収入認定され、生活保護費が減額されたり、保護費の支給が打ち切られたりすることになれば、生活保護受給者は、支給された給付金を、通常の生活費に利用することが強制されることになるのであって、新型コロナウイルス対策支援のための支給という趣旨に合致しないことになります。

「生活保護法による保護の実施要領について」の第8 収入の認定 第3項(3)オでは、「災害等によって損害を受けたことにより臨時的に受ける補償金、保険金又は見舞金のうち当該被保護世帯の自立更生のためにあてられる額」については、収入認定しないこととされています。 そして、東日本大震災においては、義援金について、自立更生のために充てられる額との認定を柔軟に行うことで、できる限り収入認定しない様な取扱が行われました。

新型コロナウイルス対策支援のために支給される10万円については、その支給の趣旨からすれば、当初から、全額を収入認定しないこととすべきですが、仮に全額を収入認定しないこととはしない場合であっても、東日本大震災における義援金のように、自立更生のために充てられる額を柔軟に認定し、できる限り収入認定しないこととすべきです。

6 新型コロナウイルス対策支援のために支給される10万円について、受領した方々が本当に経済的支援が必要としている方々への寄付をしやすい仕組み作りをすべきです。

前記の通り、一律に10万円を支給した場合、高額所得者等、必ずしもこれを必要としないという人にも支給がなされることになるでしょう。 他方で、飲食店主等の小規模な事業者を中心に、生計に大打撃を受ける方に対しては、休業補償や売上補償など十分な補償がなされているとは言えませんし、生活困窮者の支援団体、ホームレスの支援団体、子ども食堂の運営団体、馴染みの飲食店等、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、活動資金がえられないなど大きな影響を受けている様々な団体もあります。
そこで、余裕があり、給付金を不要とする方々の中には、支援したいところに対して特別定額給付金(仮称)を寄付したいと考える方々ももいらっしゃると思います。そういう方々が寄付しやすい制度をつくることが、新型コロナウイルス感染拡大により影響を受けるすべての方々に対する支援という、この給付制度の趣旨にも合致するものと考えます。

こうした仕組みを実現するには、まず、寄付の受け皿、集まった寄付を配分・現場の団体・個人につなぐ団体・基金が必要です。
こうした動きは、国や自治体よりも、現場で実際に困窮世帯等と関わっている団体や飲食店の業界団体等が、実態を把握しているはずです。各地のNPO、NGO、コミュニティファンド、民間基金、商工団体は、支援先、所属事業者の実情を反映し、寄付の受け皿としての機能を果たすべきです。

そして、こうした寄付の動きを積極的に支援するため、国は、寄附金控除(所得控除又は税額控除)の措置を執るべきです。 現在、政党に対する寄付金、認定NPO法人等に対する寄附金等、一部の寄附金が寄附金控除の対象とされています。 これらに加えて、新型コロナウイルス対策支援のための給付金と同額の10万円の寄付について、別枠で寄附金控除の対象とすることで、給付金を不要とする方々が、実際にその支援を届けたいところに寄附金を届けるという行動を積極的にとれるようになると考えます。

新型コロナウイルス対策支援の一環として、チケット払戻請求権を放棄した観客等に対して、20万円を上限とする寄附金控除の適用が実施されており、観客等が放棄しやすくすることで、イベント中止に追い込まれた主催者を保護が図られているのであり、こうした考え方を支給金にも及ぼすことは十分可能です。 こうした寄付の仕組みが実現されることで、血の通った善意が社会に行き渡り、公共の財産が正しく再分配されることにもなるでしょう。これは共助社会の実現とも評価することができます。

国は、このような社会の実現のためにも、寄付を後押しする制度の整備をするべき責務を負っており、各地で活動するNPO等の団体は、本当に困っている人々に多くの支援を届けるために、寄付の受け皿としての機能を果たすために努力すべきだと考えます。

令和2年4月27日

新型コロナウィルス対策に「災害対応」を求める弁護士有志
発起人 弁護士 新里 宏二 (仙台弁護士会)
弁護士 津久井 進(兵庫県弁護士会)
弁護士 吉江 暢洋 (岩手弁護士会)
弁護士 山谷 澄雄 (仙台弁護士会)
弁護士 宇都 彰浩 (仙台弁護士会)
弁護士 小野寺 宏一(仙台弁護士会)
弁護士 勝 田 亮 (仙台弁護士会)

【賛同人】

太田賢二・𠮷村津久紫(札幌弁護士会)、荒井剛・村山敬樹(釧路弁護士会)、脇山拓(山形県弁護士会)、山中俊介・佐藤英樹・佐々木良博・天野正継・平本丈之亮・森田了導・畠山将樹・瀧上明・吉田瑞彦・村井三郎・小笠原基也・山口研介(岩手弁護士会)、近江直人・森田祐子・江野栄(秋田弁護士会)、山田いずみ・布木綾(仙台弁護士会)、松尾政治・渡邊純・平岡路子・西山健司(福島県弁護士会)、二宮淳悟(新潟弁護士会)、舘山史明・猪股有美・関夕三郎・鈴木克昌・佐藤健介(群馬弁護士会)、小野寺豊希・栗屋威史(千葉県弁護士会)、小林玲子(埼玉弁護士会)、大沼宗範・貞弘貴史・的場美友紀(東京弁護士会)、三輪記子・神田友輔(第一東京弁護士会)、在間文康・髙嶋寛・小海範亮(第二東京弁護士会)、永野海・白井孝一(静岡県弁護士会)、澤健二・上松健太郎(愛知県弁護士会)、中島清治・久米川良子・中原明日香・高橋敏信(大阪弁護士会)、上谷佳宏・佐々木優雅・道上明・辰巳裕規・安井健馬・永井幸寿・藤本久俊・木村裕介・中山泰誠・名倉大貴・河瀬真・森川憲二・関本龍志・吉田哲也・田崎俊彦・古殿宣敬・菱田昌義(兵庫県弁護士会)、三木悠希裕(岡山弁護士会)、今田健太郎(広島弁護士会)、長谷義明(山口県弁護士会)、櫻井彰・堀井秀知(徳島弁護士会)、伊野部啓(高知弁護士会)、春田久美子・髙橋厚至郎・渡邊純(福岡県弁護士会)、鹿瀬島正剛(熊本県弁護士会)、雨宮敬之・正込健一朗(鹿児島県弁護士会)、長尾大輔

以上81名

■ PDFダウンロード