COVID-19:災害法制を参考にした緊急対策を求める提言(緊急提言5)

数々の新型コロナウィルス対策が実施されていますが、期待された成果が得られていません。たとえば、政府が主力として打ち出した雇用調整助成金は、煩雑な手続き、支給に要する期間、助成額の上限等により、事業者・労働者のいずれの立場も救済されていないのが実情と言わざるを得ません。私たちは、4月16日付の緊急提言書で、激甚災害法に基づく「雇用保険法による求職者給付の支給の特例」を活用し、新型コロナ対応で事業所が休業となった場合、休業中に解雇せずとも雇用保険の基本手当が受給できる方法を提案しました。しかし、「新型コロナウィルス感染拡大は『災害』には該当しない」という形式的理由で、未だ活用に至っていません。

私たちの提案の真意は、「新型コロナウィルス感染拡大」を「災害」の定義に書き加えることではありません。新型コロナウィルス感染拡大という未知の危機に対し、思いつきで場当たり的な対応をするのではなく、災害列島である日本において積み重ねてきた災害対応の経験や知恵の蓄積、原発事故等の事故で得られた反省や教訓の数々を、所管を問わず最大限に活かすことです。

法制度の活かし方は、「直接適用」だけではありません。「法改正」や「準用」、「政令等による拡張」、現場の「弾力的運用」、同種の仕組みを要綱化した財政出動、地方自治体への交付税の手当てなど、取り得る方法はいくらでも存在します。災害の経験に学び、先例に基づく知恵を凝らし、真にやる気さえあれば、有効な新型コロナウィルス対策は十分に可能であると考えます。

私たちは、本提言において、災害法制を参考にした緊急対策として、これまでの4本の緊急提言に加え、以下のとおり提案します。

1 災害対策基本法を参考に、対応権限を市町村長に委ね、市町村レベルで、きめ細やかな新型コロナウィルス感染予防対策を行うこと

現在、中央政府が政策を決め、新型インフルエンザ特措法に基づく対応は知事が行う仕組みです。しかし、生活者目線に立った細やかな対応は、市町村長において行うのが好ましいと言えます。災害対策基本法は現場主義の観点から、市町村長に権限を付与しています。そこで、同法を参考に、市町村に権限を付与し、新型コロナウィルス感染予防対策と生活者支援を行うべきです。

2 災害救助法を参考に、以下の対応を行うこと。
(1) 在宅避難者に対する食料、飲料品、生活必需品を供与する
(2) 住宅困難者に、避難所として宿泊施設を提供する
(3) 生業に必要な金銭や用具の貸与・給与を行う
(4) 学用品供与として、生活困窮世帯に、ネット環境を整備する

災害救助法は、様々な被災者支援の方法を用意しています。たとえば、食料等を自宅に供与することで買い物外出を防止することができます。失業で住まいを失った人々やネットカフェで生活していた人々に安全性の高い施設を提供することができます。条文上は生業資金も給付できます。生活困窮でネット環境が整わない就学児世帯に、モバイルWifi等を貸与してオンライン学習を可能とすることもできます。救助法を適用せずとも、これを参考に、それに見合う救助費を国が財政措置することでこれら施策は可能となるはずです。

3 自然災害債務整理ガイドライン、事業者再生支援機構設立などの方法で、弁済に困窮している方々に、既往債務の減免を行うこと

東日本大震災を契機に、災害によって既往債務の弁済が困難となった個人には自然災害債務整理ガイドラインという仕組みによって、法人等の事業者には公的機関(たとえば株式会社東日本大震災事業者再生支援機構など)が債権買い取りすることによって、債務の猶予や減免等を行って救済を行ってきました。それと同様のスキームを早期に立ち上げることにより、個人の破産、事業者の倒産を防止することができます。

4 生活困窮支援制度、住宅セーフティネット制度や、みなし仮設住宅を改善した上で応用し、借主の家賃の減免・貸主への家賃補助を行うこと

現在、家賃の減免について現在検討がなされていますが、既に福祉制度を中心に家賃補助の仕組みは存在しており、それを改善した上で利活用することが簡便です。また災害救助法に基づくみなし仮設住宅(賃貸型応急住宅)を改善して、これを参考にして家賃補助を行うことも可能です。

5 災害弔慰金法の関連死を想定して、予想される「コロナ関連死」への早期対応を行うこと

医療の限界で十分な治療が受けられないことによる死亡に加え、外出制限による孤立で孤独死、あるいは生活不活発に起因する病死、生活困窮等による自死等が懸念されます。いずれも、災害や原発事故で起きた「災害関連死」と同じです。これを防止するため、災害弔慰金法に基づく「関連死」を想定して、孤立や生活不活発を予防し、関連死を防止するべきです。

6 災害ケースマネジメントの手法を活用して、官民連携し、支援を要する社会的弱者に対してアウトリーチし、ニーズに応えた個別ケアを行うこと

災害ケースマネジメントは、一人ひとりに必要な支援を行うため、被災者に寄り添い、その個別の被災状況・生活状況などを把握し、それに合わせてさまざまな支援策を組み合わせた計画を立て、官民連携して支援する仕組みのことを言います。福祉制度も最大限に活用し、所管の垣根を越え様々なセクターが協働しなければなりません。コロナ禍においても復興期には必ず必要になる仕組みです。早期にそのための物心両面の体制を整えておかなければなりません。

令和2年5月1日

 

新型コロナウィルス対策に「災害対応」を求める弁護士有志

【呼び掛け人】太田賢二・伊藤考一(北海道)、吉江暢洋・佐藤英樹(岩手)、新里宏二・内田正之・山谷澄雄・宇都彰浩・小野寺宏一・勝田亮(宮城)、及川善大(山形)、渡辺淑彦・松尾政治・平岡路子(福島)、舘山史明(群馬)、中野明安・岡本正・加畑貴義・神田友輔・在間文康(東京)、永田豊(千葉)、二宮淳悟(新潟)、永野海(静岡)、繁松祐行(大阪)、永井幸寿・津久井進・辰巳裕規(兵庫)、大山知康(岡山)、今田健太郎・工藤舞子(広島)、堀井秀知(徳島)、野垣康之(愛媛)、松尾朋(福岡)、奥田律雄(佐賀)、鹿瀬島正剛(熊本)、黒木昭秀(宮崎)、小口幸人(沖縄)
【賛同人】
秀嶋ゆかり・西尾弘美・村山敬樹・荒井剛(北海道)、近江直人・森田祐子・江野栄(秋田)、長谷川頌・畠山将樹・川上博基・吉江暢洋・長谷川大・安澤裕一郎・平本丈之亮・山中俊介・太田秀栄(岩手)、布木綾・小向俊和・菅野高雄・松尾良成・須田晶子・伊東満彦・栗原さやか・井口直子・菅野真光・坂本仁・坂口真理子・加瀬谷拓・後藤雄大・伊藤佑紀・太田伸二・松浦健太郎・佐藤篤・及川雄介・倉林千枝子(宮城)、脇山拓(山形)、平間浩一・唐牛歩・西山健司・小林素(福島)、吉村一洋(新潟)、伊澤正之(栃木)、猪股有未・原田英明・関夕三郎・鈴木克昌・斉藤匠・西村直行・名古拓磨・稲毛正弘・古平弘樹・石島研二・野上佳世子(群馬)、鈴木隆文・及川智志・鈴木勝之・髙橋修一・辻慎也・栗屋威史・長浜有平・佐藤隆太(千葉)、滝沢香・有本真由・大沼宗範・酒井桃子・杉浦ひとみ・平澤慎一・森田太三・上山直也・山本政明・松本明子・上柳敏郎・三輪記子・佐藤太史・幸田雅治・小海範亮・小室光子・李桂香(東京)、藤田温久・多湖翔・村瀬敦子(神奈川)、山岸重幸(長野)、植松真樹・太田吉則・大多和暁・阿部浩基・小笠原里夏(静岡)、木下実・春山然浩・坂本義夫・橋爪健一郎(富山)、野条泰永(福井)、澤健二・岩城善之(愛知)、石坂俊雄(三重)、佐藤正子・土井裕明(滋賀)、諸富健・金杉美和・松本隆彦(京都)、砂川辰彦・瓦井剛司・小橋るり・青木佳史・村瀬謙一・奥田愼吾・木口充・明賀英樹・小久保哲郎・篠原俊一・国府泰道・赤津加奈美・菅野園子・島村美樹・金子武嗣・有村とく子・冨田真平・安原邦博・中島清治・浜田雄久・足立朋子・髙橋敏信・亀山元・薬袋真司・吉岡一彦・保木祥史・白井啓太郎・針原祥次・福原哲晃(大阪)、道上明・森川憲二・安井健馬・松山秀樹・亀田廣美・南野雄二・大塚明・田崎俊彦・佐伯雄三・小牧英夫・名倉大貴・森川太一郎・吉田哲也・中山泰誠・相原健吾・安原浩・後藤玲子・渡部吉泰・守谷自由・中川裕紀子・藤本尚道・曽我智史・白子雅人・吉江仁子・大槻倫子・藤原精吾・濱本由・増田正幸・藤本久俊・河瀬真・菱田昌義・岡村勇人・木村裕介(兵庫)、金原徹雄(和歌山)、三木悠希裕(岡山)、砂本啓介・友清一郎(広島)、大田原俊輔(鳥取)、長谷義明(山口)、大塚喜封・櫻井彰(徳島)、伊野部啓(高知)、春田久美子・渡邊純・椛島敏雅(福岡)、正込健一朗・雨宮敬之(鹿児島)、保田盛清士・仲松正人・山城圭・仲宗根翔太・藤井光男・稲山聖哲・武田昌則(沖縄)
【呼び掛け人37名、賛同人183名】※( )内は所属地の都道府県名

■ PDFダウンロード