令和6年能登半島地震に関する緊急提言(4)

 私たち、「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」は、令和6年能登半島地震に関して、令和6年1月4日1月7日1月11日に、それぞれ緊急提言を公表し、被災者の命を守り、生活再建を支えるための各種提言をしてきました。

 もとより、私たちは、罹災証明書に左右されない被災者に必要な支援の実現を求めて活動していますが、現在の災害関連法を前提とすれば、被災者に対する支援については、罹災証明書の発行が極めて重要となります。

 緊急提言(2)、(3)では、罹災証明書の迅速、適切な発行や、罹災認定の合理化、効率化に関する工夫を求めましたが、さらなる具体策を提言します。

 

1 全壊判定の簡易化(認定作業トリアージ)を

 認定作業の効率化のため、全壊の判定はできる限り簡易に行うべきです。

 今回の震災は、相当大きな被害を生んでおり、全壊と判定しうる建物が非常に多いことが明らかです。そうであれば、全壊と判定しうる建物は、慎重な調査をせずともすぐに判定できるのであり、全壊に至らない建物の調査に作業を集中させるべきです。

 

2 エリア判定の活用を

 そのための有効な手段として、エリア判定の方法を活用すべきです。

 例えば、津波被害であれば、一定の浸水域を確定し、「その浸水域から海側にある建物はすべて全壊」と判定することが考えられます。

 地震のみの被害であれば、一例として、地域内にある倒壊等の全壊の判定となる建物を4点示した上で、「この4点の全壊建物に囲まれた範囲の建物はすべて全壊」と判定することが考えられます。

 このような判定方法は、東日本大震災等でも活用されてきたところであり、津波等の場合には国も明記している方法です[1]。簡易に判定することができることに加え、今回の令和6年能登半島地震では結果としても不当な認定にはならないものと考えます。

 

3 写真、航空写真、民間専門家の活用を

 エリア判定においても、個別判定においても、写真による簡易な方法による全壊判定の手法が積極的に活用されるべきです。

 国の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針【令和3年3月】」において、「一見して住家全部が倒壊している場合、一見して住家の一部の階が全部倒壊している場合又は一見して住家全部が流出し」ている場合などは、外観目視調査により全壊判定することが定められていますので、写真を用いて外観による判定を行うことは当然に可能と考えられます。

 また、国は、「現地調査が行えない場合、倒壊・流出等の住家の集中が想定される場合等」には「航空写真等を活用して「全壊」の判定が可能」であることを明記し[2]、また、「住家被害認定調査を迅速化するため、明らかな全壊家屋について写真判定にする等のより簡易な手法の活用を行う」べきであるとの熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策検討ワーキンググループによる報告書結果についても内閣府資料の中で紹介しているところです[3]

 ただし、その際、被災者自身に自宅等の写真の提出を求めることは基本的に控えるべきです。大きな余震が続く中、倒壊など損傷した家屋に出向くことは、被災者の生命、身体の危険につながる上、既に広域避難により遠方で避難生活を送る被災者はもちろんのこと、そうでなくても厳しい避難生活の中で被災者にさらなる負担を強いることになるからです。

 液状化による被害などを含め、建物の傾斜による全壊判定をする場合でも、建築士、不動産鑑定士、土地家屋調査士等の専門家に協力を求め、写真等から明らかに全壊と判定しうる傾きを確認してもらうことで全壊判定をすることなども積極的に行うべきです。特に、既に実施済みの応急危険度判定に関わった建築士の協力が得られれば、大幅な調査の合理化・能率化が図れるはずです。

 

4 建物の被害状況が変化すること等を見据えた認定を

 今現在は半壊の状態であっても、余震の継続や大量の降雨・降雪の影響により、被害が拡大することがあり得ます。

 通常の建物であれば影響の出ない程度の地震、降雨、降雪であっても、既に損壊している建物への影響は大きくなります。

 よって、建物自体は現在のところ半壊の状態であっても、その後の余震の状況、降雨、降雪により危険度が増すこと、長期間住居に戻って生活することができないことも踏まえて、積極的に全壊の判定とすることも検討されなければなりません。

 

5 職権発行と職員等の安全確保を

 これらの工夫を活用することで、被災者の申請を待たずに罹災判定をすることが可能となります。エリア判定が可能な地域など、職権で判定できる建物については職権で発行を進めるべきです。

 また、これら工夫によって、二次調査のために、自治体職員が、危険な被災地域に出向き、倒壊の危険のある建物の中に行かなければならないケースをなくすことができます。

 令和5年奥能登地震の際は、全戸判定の方式がとられましたが、今回の震災のような大きな被害が生じた場合には、適切ではありません。判定すべき対象が極めて大量であり、かつ、判定すべき建物の所在地が今も危険な状態にあることを考えれば、できる限り簡易、安全に、認定の作業を進めていくべきです。

 

6 安易な自己判定方式には注意を

 一方で、写真を用いて、安易に自己判定方式による認定を進めるべきではありません。
 地震や液状化による被害は、一見、被害が少ないように見えても、実際には、基礎の損壊や建物の傾き等により、大きな被害が隠れている可能性があります。自己判定方式による認定は、「準半壊に至らない(一部損壊)」ということになります。本来は、もっと大きな被害が隠れていた場合に、生活再建のために受けられる支援が受けられなくなってしまう可能性があります。

 そうした、一見被害が少なそうな建物こそ、慎重な調査が必要です。

 

7 令和6年能登半島地震に即した体制を

 今回の震災のように、大きな被害が生じている場合には、大きな被害(全壊)については、できるだけ簡易に認定作業を進め、判定が難しい被害にこそ力を集中させるべきです。それが、被災者の命を守り、生活再建を支えることに加え、自治体職員の命や安全を守ることにもつながります。

 現在、国や各自治体においては、罹災証明書の発行作業に着手しつつ、その体制整備を並行して検討しているものと思います。検討にあたっては、上記の各点を踏まえて、形式的な基準や前例にとらわれず、災害の性質や被災地の現状に即した体制とするよう、提言する次第です。

 

2024(令和6)年1月12日

 

一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会
共同代表 新里 宏二
共同代表 天野 和彦
共同代表 津久井 進

 

令和6年能登半島地震に関する緊急提言(4)(PDF)