令和6年能登半島地震では未解決の課題が山積している。特に一人ひとりの被災者は苦難を強いられ生活再建もままならない。被災地の復興に向けて、数々の苦い教訓を、法制度の改善に結び付けていく必要がある。
私たちは、骨太方針2024(令和6年6月21日の「経済財政運営と改革の基本方針2024」)の中で「地域における防災力の一層の強化のため、災害ケースマネジメント(中略)等の充実強化に取り組む」とされ、さらに「災害関連制度における福祉の位置付けの検討を含む」「必要な制度見直し等を行う」と明記されていることから、具体的な改善提案を行う使命があると考えている。
そこで、災害法制における福祉の位置付けを明確にするとともに、罹災証明書など被災地で課題が明らかになっている諸制度の改善を行うべく、以下のとおり5項目(18件)の制度提案をする。
第1 災害対策の目的に①個人の尊厳保持と②福祉を明記すること
被災者の人権を尊重し、誰一人取り残さない生活再建を実現するため、災害対策基本法(以下「災対法」という)や災害救助法(以下「救助法」という)につき、次のとおり改正を行う。
(1) 災対法の目的に「個人の尊厳の保持に資すること」を追加する
※災対法1条には、「国民の生命・身体及び財産」の保護と、「社会の秩序の維持」「公共の福祉の確保」は明記されているが、個人の尊厳は言及がない。
(2) 災対法の基本理念に「すべての被災者が基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重され、また、支援を受けられること」を追加する。
※災対法2条は基本理念を6項目にわたり列挙しているが、被災者の人権について言及がない。
(3) 救助法のメニューに「福祉サービスの提供」(①訪問型を含めた相談支援、②各種支援制度の利用援助、③介護その他の生活支援)を追加する。
※救助法4条には救助の種類が定められているが「福祉」は含まれていない。
(4) 都道府県・市町村が定める地域防災計画に、「福祉サービス」(①訪問型を含めた相談支援、②各種支援制度の利用援助)を中核とした被災者支援の実施を規定する。
※災対法40条(都道府県地域防災計画)、42条(市町村地域防災計画)には、福祉サービスのうち、相談支援や支援利用援助について言及されていない。
第2 民間と連携した被災者支援を基本とすること
被災者支援は行政が中心に行う基本的枠組みになっているものの、被災現場では民間組織(ボランティア、企業、団体、市民など)の活動が有効に機能しており、ノウハウの蓄積等も含め、官民間等の連携が必要であり、それを制度上も明確にしておく必要がある。
(1) 災対法の基本理念に、「国、地方公共団体及びその他の公共機関並びに民間組織の適切な役割分担及び相互の連携協力」を明記する。
※災対法2条の2には、民間セクターの役割について言及がない。
(2) 災対法に、「国、地方公共団体及びその他の公共機関は、災害発生前から民間組織と適切な役割分担を取り決め、災害対応に至るまで連携に努めねばならない」旨を明記する。
※災対法5条の3には、ボランティアとの連携について条文があるが、その他の民間組織との連携については言及がない。
第3 社会保障関係に被災者支援を位置付けること
災害法に福祉を盛り込むと共に、社会保障法制の中にも被災者支援を位置付けることによって、災害と福祉のシームレスな関係が構築できることになる。そこで社会保障関連法について、次のとおり改正を行う。
(1) 災対法の被災者援護措置のひとつに、都道府県・市町村が、民間組織(社会福祉団体、NPO、士業団体等)の参画を得て「福祉サービス」(①訪問型を含めた相談支援、②各種支援制度の利用援助)を実施することを義務化する条文を設ける。
※災対法の「第7章 被災者の援護を図るための措置」の中には、福祉サービスの実施についても、民間組織との連携について言及がない。
(2) 前項の条文には、「包括的な支援体制の整備」と「重層的支援体制整備事業」と一体ものとして実施することを明記する。
※前項で提案した福祉サービスの実施は、福祉施策と連携したものとするべく、社会福祉法106条の3に定める「包括的な支援体制の整備」や、同法106条の4に定める「重層的支援体制整備事業」と一体のものとして実施する必要がある。
(3) 社会福祉法に定める「重層的支援体制整備事業」に、災対法の定める「福祉サービス」(①訪問型を含めた相談支援、②各種支援制度の利用援助)を規定する。
※災対法で定めた重層的支援体制整備事業に、福祉サービスの内容を明記することで支援制度を利用できるようにする。
(4) 社会福祉法に定める市町村・都道府県の「地域福祉計画」に、災対法の定める「福祉サービス」(①訪問型を含めた相談支援、②各種支援制度の利用援助)に関する事項を規定する。
※社会福祉法の定める市町村地域福祉計画(同法107条)、都道府県地域福祉計画(同法108条)に、災対法で定めた支援制度を盛り込む必要がある。
(5) 激甚法の補助対象に、生活困窮者自立支援法、介護保険法、障害者総合支援法などの福祉サービスを追加する。
※激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(激甚法)は激甚災害時の財政援助等について規定しているところ、災害によって生じた生活困窮者などの相談需要やアウトリーチの増加および介護その他の生活支援サービスの増加に対応するため、関連福祉法(「生活困窮者自立支援法」「介護保険法」「障害者総合支援法」など)の福祉サービスを援助対象に加える必要がある。
第4 その他の改善提案
(1) 「被災者台帳」を国および都道府県でも作成可能とし、被災前から社会保障関係の台帳をベースに作成するものとする。
※罹災証明書を被災者支援制度と分離するとなると、これに代わる被災者の被災区分の把握は、被災者台帳に基づくことになる。被災者台帳は災対法90条の3に基づき市町村しか作成できない。しかし、都道府県外や市町村外の広域避難者に対応するため、国や都道府県でも作成可能とする必要がある。また、被災前にも作成はできない仕組みになっているが、災害の備えとして被災前から作成可能とする必要があり、そうなると社会法相関係の台帳をベースに作成するのが現実的である。
(2) 原発避難者特例法と同様の被災者関係の法整備を行う。
※どのような災害に遭っても、住民票を移すことなく避難先の住民サービスを享受できるようにする必要があり、そのためには二重の住民票が取得できる新制度を設けるのが好ましく、原発事故における研究・提案の蓄積を再検討するべきである。それまでに、十分ではないものの原発避難者特例法と同様の法整備は最低限の措置として行う必要がある。
(3) 東日本大震災における緊急雇用創出事業のような、雇用の創出自体を目的とする事業を行う。
※能登半島での地域労働市場の縮小に鑑みると、大規模災害時に迅速に実施可能な雇用の創出自体を設けるべきである。先例として、東日本大震災における緊急雇用創出事業が考えられる。
(4) 多様な恒久住宅供給手法(①住宅セーフティネット法における住宅確保要配慮者向け住宅の災害時活用、②民間ストック活用型の公営住宅への補助率の増加など)を提供する支援事業を行う。
※人口減少下にある能登半島地震の被災地では、国庫補助率が高い災害公営住宅の供給過剰が指摘されているが、被災建物や空き家などを修復整備するなどして住宅セーフティネット法における住宅確保要配慮者向け住宅の災害時活用をするとか、民間ストック活用型の公営住宅への補助率の増加、借上げ復興公営住宅の展開など、多様な恒久住宅供給手法を支援メニュー化することが有効かつ現実的である。
以上
2024年8月7日
一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会
共同代表 新里 宏二
共同代表 天野 和彦
共同代表 津久井 進