私たち「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」は、令和6年能登半島地震の発生直後から、令和6年1月中に緊急提言を計30件、8月7日に追加提言18件を公表しました。発災から1年が過ぎた今、一人ひとりの被災者の生活再建に資するよう、この48件の提言が被災地で実践されることを心から期待しています。
被災地では、現在、ご自宅で生活できない多くの方々が、建設型応急住宅(いわゆる仮設住宅)や賃貸型応急住宅(いわゆるみなし仮設住宅)で暮らしています。奥能登の復興の歩みは超スローペースです。令和6年能登半島地震の傷跡は癒えず、前年の令和5年奥能登地震や令和6年奥能登豪雨の多重被災による深刻な影響に加え、住家被害認定や公費解体、インフラ復旧などの行政対応も想定をはるかに超える長い時間を要しています。県外への二次避難先では、公営住宅の無償供与期間が令和7年12月末まで延長された例もあります。被災した一人ひとりの生活再建の道のりは、まだまだ途上にあると言わざるを得ません。
ところで、能登半島地震の被災者のうち、被災前、持ち家(所有物件)に住んでいた方の仮設住宅の供与期間は「2年」とされています(なお、さらなる延長も可能です。)。ところが、被災前、賃借物件や公営住宅などに住んでいて仮設住宅に入居した方々(約470世帯)の供与期間は「1年」とされています。
この取り扱いの区別には、以下のとおり合理的理由がありません。そこで次のとおり提言をいたします。
【提言1】 石川県は、仮設住宅の入居期間について、被災前の居住形態が所有と賃借等の違いで区別をせず、等しく扱うよう運用を改めるべきである。
石川県がこのような取り扱いをしている理由は、借り住まいであれば、1年以内に他の賃借物件を探して被災前と同様の住まいの確保が可能だから、物件を新築・購入・修理しなければならない持ち家の被災者とは異なる、という考えに基づいているようです。国が石川県に対し、過去の災害でも同様の先例があるとして、そのような扱いを求めた経緯もあるようです。
しかし、住居が被災した方々に対する居住支援は、人権保障・人道支援を本質として行うものです。このような仮設住宅の供与期間の取り扱いの差は、不合理な差別にほかならず、憲法上の平等原則に違反します。被災者は、生活再建が進んで住居が確保できれば仮設住宅を退去しますから、まず優先すべきは生活再建の支援であって、仮設の解消ではありません。ぜひ、能登半島地震の被災地を直視して下さい。住居の余裕などまったくありません。仮設住宅を無理に退去させても住む場所がないのですから、被災者の生存権を脅かすだけです。特にみなし仮設ではなく元の被災地で建設型仮設住宅に入居した世帯(247世帯)が賃貸物件を探すとなれば、奥能登地域には入居可能な賃貸物件が圧倒的に不足している中、故郷や元の住まいを離れて金沢市など都市部に転居せざるを得ません。そうなると、それまでの仕事や学校、病院やコミュニティといった生活の基盤を失い、人生の建て直しを余儀なくされ、高齢の方々などは健康の悪化を招いて生命の危機さえ招きかねません。被災地の復興まちづくりの観点からしても、住民の人口流出を促進につながり、復興方針としても誤っています。そもそも、入居期間を1年に制限する法的根拠はありません。国の基準や通知・通達等にもそのような根拠規定は一切ありません。現状は、石川県が独自の基準を立てて運用しているに過ぎず、被災者に鞭を打つ過酷な政策です。
石川県においては、一刻も早く、賃貸型応急住宅実施要綱の該当部分を改めてください。建設型応急住宅については、明文根拠もないのに被災者の権利を制限しているので、直ちにそうした運用を排除してください。被災者の被災前の居住形態による差別をなくし、仮設解消よりも、生活再建支援に注力してください。
また、仮設住宅に入居している方々の中には、住家被害が半壊に満たないものの、上下水道等のインフラが破損して住めない方もいます。こうした方々は、令和6年12月末が仮設供与期限だったところ、令和7年3月まで期限延長されました。ただ、その後は延長がないと説明されているようです。しかし、インフラが復旧しない限り、住居に戻れないことは言うまでもありません。
【提言2】 石川県は、インフラ被害による仮設住宅入居者には、インフラが復旧し居住可能な状態になるまで入居期間を延長するよう取り扱うべきである。
石川県は、仮設住宅の入居期間の決定を、被災地の復旧状況を考慮せず、被災者の生活上の困窮状況も把握せず、被災者を守らず、自らが決めた「期間」を守るために退去を迫っているに等しいです。これは居住の権利を損ない人道に反する人権侵害と言わざるを得ません。
同じことは令和5年能登半島地震の被災者についても言えます。令和5年能登半島地震で被災して仮設住宅に入居した方々も、令和7年5月以降に、仮設住宅の入居期間の一般基準である2年を迎えることになります。しかし、その後に立て続けに被災し、今なお過酷な状態にあることは先に述べたとおりです。
にもかかわらず、令和5年能登半島地震の仮設住宅の供与期間が延長されるかどうか分からないため、被災者は退去を恐れながら過ごしているのです。
【提言3】 石川県は、令和5年能登半島地震の仮設住宅について、一日も早く、供与期間を1年延長することを決定し、それを公表するべきである。
石川県にとって、今、最も必要とされることは、被災者に寄り添う姿勢を示すことです。いくらポジティブで創造的な言葉を並べたとしても、一人ひとりの被災者の生活の起訴を脅かす施策が実行されたら、被災者の心は折れます。支援者をはじめとする被災地に心を寄せている全国の人々も失望します。復興の主役は一人ひとりの被災者ですが、主役が二次的にダメージを受けることによる影響は大きく、被災地に生じる負の連鎖は止まりません。それは災害関連死の温床にもなりかねません。被災地の現状に即した一人ひとりに寄り添う対応こそが求められています。令和5年地震の被災者に対する手厚い対応は、令和6年地震の被災者の信頼の糧になり、被災地全体の復興の推進力になるはずです。
「一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会」としては、令和6年1月に発出した緊急提言で訴えた、「災害ケースマネジメントの実施」、「時代に即した災害救助を」、「制度運用は『迷ったら被災者の利益に』を第一に」、「地元で元気に暮らせる日までの見通しを明示すること」で述べた趣旨をあらためて強調し、今回、新たに提言させていただきます。
以上
2025(令和7)年1月24日
一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会
共同代表 新 里 宏 二
共同代表 天 野 和 彦
共同代表 津久井 進
令和6年能登半島地震に関する提言(7)(PDF)